研究室
所属大学では「動物生態学研究室」を主催しています。学生さんとともに、主に中大型哺乳類の行動や生態について研究しています。キャンパス周辺や瀬戸内海に浮かぶ島々を含む瀬戸内地域を広く舞台とし、フィールドワークに根差した研究を展開しています。中でも香川県小豆島に生息するニホンザルの研究には、長年に渡って力を入れています。豊かな島嶼地域で、それぞれの島ならでは面白さと、複数の島が関連し合って生み出される複雑な全体像の両者を描き出したいと考えています。
興味・関心
私は、動物個体群の成り立ちやダイナミクスに興味を持っています。個体群とは、ある地域に生息する同種個体のすべてのことと定義されます。動物たちは近場から遠方までさまざまなところに住む他者とどのように関わり合って生きているのか、それによって個体群全体がどのように維持されているのか、そもそも個体群はどのように誕生したのか、こういった疑問に答えていきたいと思っています。
島の哺乳類の歴史
瀬戸内の島嶼には様々な哺乳類が生息しています。彼らはどのように島に侵入・定着するに至ったのでしょうか。瀬戸内海の海水面変動によって周辺大陸から隔離された種もいれば、海を泳いで侵入した種もいるでしょう。私はDNA分析により、小豆島のニホンザルとニホンジカが本州由来であることを明らかにしました(Ishizuka et al. 2024a)。現在は、瀬戸内海を泳いで渡るイノシシに注目し、分布拡大の経路や、生態系への影響についての研究しています。
ニホンザルの社会
ニホンザルは複数のオスとメスが所属する群れを形成し、様々な個体と関わりを持って暮らします。このような「社会」の様相を明らかにすべく、群れのメンバー全員を識別して長期観察を継続しています。例えばメスの育児について調べたところ、娘をもつ母親は娘との関わりに多くの時間を割くため、他のメスとの付き合いが減少することを明らかにしました(Ishizuka & Inoue 2023)。また、オスの繁殖にについて調べたところ、群れの外のオスが交尾期に群れにやってきて多くの子を残すことを発見しました(Ishizuka et al. 2024b, ブログ)。
関連論文
アフリカのボノボの研究
大学院生時代からは、私たちの進化の隣人であるボノボの研究を続けています。ボノボは隣接集団(群れ)同士が平和的な関係を築き、集団間で多様な関わりが見られます。ボノボの隣接集団間の関わりについて理解することは、動物個体群の内部の相互作用の実態を理解することにつながると考えています。そこで私は隣接する複数集団を対象とし、集団間の関係や相互作用について探究しています。
オスの繁殖
ボノボは隣接する集団同士が出会った際に、異なる集団の個体間で交尾が頻繁に見られます。このような行動からは、隣接する集団の間で繁殖が行われている可能性が示唆されます。そこで隣接する3集団の個体間の血縁関係を調べてみたところ、予想に反し、オスが隣の集団のアカンボウの父親となることは稀であること、多くの子の父親が最優位オスであることがわかりました(Ishizuka et al. 2018)。また、特定のオスが多くの子を残すことによって集団内のオス間の血縁関係が強くなる反面、隣接集団のオス同士が遺伝的に分化することもわかりました(Ishizuka et al. 2020b)。隣接集団間の平和的な関係は、オスの遺伝的な近さによって支えられているわけではないと考えられます。
メスの移籍
ボノボのメスは、性成熟する前後に出自集団を出て他所の集団に移籍していきます。このようなメスが最終的にどこの集団に行き着いて定着するかについては不明です。私はDNA分析によってメスの移籍を検討したところ、半数以上のメスが出自集団に隣接する集団に移入・定着するという推定値を得ました(Ishizuka et al. 2020a)。多くのメスが隣接集団に移入し、隣接集団のメス間に血縁関係が存在することが関係しているのかもしれません。